動的平衡とシェーンハイマーの実験

 生物の場合、外から物質を摂取して体内の一部とし、不要物は体外へ排出する。物質の流れが外(食べ物)→内→外(排泄物)と流れが一方的で循環していない(生態学的な大きな視点では循環しているが)。このような流動的な平衡状態を「動的平衡」と呼ぶ。
生命が動的平衡の状態であることは、ルドルフ・シェーンハイマーの実験によって確認された。

 
 ルドルフ・シェーンハイマー(米:Rudolph Schoenheimer、1898年5月10日 - 1941年7月11日)は、ドイツ生まれのアメリカ合衆国の生化学者。代謝回転の詳細な調査を可能にする、同位体を用いた測定法を開発した。
 
シェーンハイマーは成熟したネズミに重窒素(窒素の同位体)で標識したロイシン(アミノ酸)を含む餌を与えた。成熟したネズミは体を大きくする必要がないので、摂取したアミノ酸は生命活動のためのエネルギー源となることを予想していた。つまり、重窒素を含むアミノ酸は分解され(エネルギーが取り出され)、尿や糞として排泄されることの予測を立てていた。
しかし、実際の結果は、尿・糞として排泄されたのは投与量の29.6%だけであった。重窒素の半分以上の56.5%は体を構成するタンパク質の中に取り込まれていた。さらに、取り込み場所はありとあらゆる部位に分散されていたのである。しかもその多くは腸管や腎に多く取り込まれていた。
この実験の間にネズミの体重に変化はなかったことから、全身のタンパク質が恐ろしいスピードで破壊され、また新たに合成されていたことがわかる。実際にネズミの全身のタンパク質は3日で半分が新しいタンパク質に入れ替わることが確認されている。
 
生命にとって重要なのは、作ることよりも、壊すことである細胞はどんな環境でも、いかなる状況でも、壊すことをやめない。むしろ進んで、エネルギーを使って、積極的に、先回りして、細胞内の構造物をどんどん壊している。なぜか。生命の動的平衡を維持するためである。
秩序あるものは必ず、秩序が乱れる方向に動く。宇宙の大原則、エントロピー増大の法則である。この世界において、もっとも秩序あるものは生命体だ。生命体にもエントロピー増大の法則が容赦なく襲いかかり、常に、酸化、変性、老廃物が発生する。これを絶え間なく排除しなければ、新しい秩序を作り出すことができない。そのために絶えず、自らを分解しつつ、同時に再構築するという危ういバランスと流れが必要なのだ。これが生きていること、つまり動的平衡である。
    以上、Manabu-biology.com  より引用
 
 
生命は入れ替わりである。
人間の消化管は2-3日、筋肉は2-3週間程度、血液は6ヶ月程度で入れ替わる。
1年で細胞はほぼ入れ替わる。さらに骨でさえ、2年から2.5年もすれば全て入れ替わる。
自分というものはない。