伝承 紬

昨年、突然立ち寄った着物のお店で、白大島紬を見せて頂いた。到底買える値段ではなかったが、偉そうに触らせても貰った。

あの手触りは今でも脳裏に焼き付いている。
今日は、全くど素人ではあるが、紬のお話


日本の衣服の材料には、主に「麻」、「絹」、「木綿」が用いられ、紀元前の縄文時代には麻や草木が主流とされ、弥生時代には蚕の繭から紡いだ絹糸を用いる絹織物の製法が日本にも伝わっていたとの説がある。
着物は大きく分けて2種類あり、留袖や訪問着・振袖など白生地の状態で染色し、絵を描くなどして仕上げる染物(後染め)と、紬のように糸の状態から染色し、様々な織り方で柄を表現する織物(先染め)に分類されるそうだ。
紬は、絹糸が布表面の生地となっており、絹独特の光沢感が出ることが特徴である。その一方で、後染めに比し、先染めは模様が糸まで染まるまで長い時間を要することから、大変なコストと時間がかかる。
紬は、全国各地に存在するが、中でも大島紬久米島紬、牛首紬結城紬などが代表的なものである。


大島紬
鹿児島県南部に位置する奄美大島半島で織られた紬で、伝統的な泥染めが有名である。何度も染料に浸した糸を泥田につけて揉み込むことにより、頑丈で美しい風合いが表現されている。
着た時にシワになりづらく、艶感のある軽い肌触りが特徴である。


久米島
沖縄県久米島で織られた紬、琉球王朝の時代から織られていた。各地域の製法は久米島紬が起点となっており、久米島は紬発祥の地とも言われている。


牛首紬
石川県石川郡白峰村で織られた紬。その特徴は、耐久性に優れたハリの風合い。その丈夫さは、釘を引っ掛けてもやぶれずに釘の方が抜けてしまうほど丈夫なことから、「釘感紬」と言う別名があるそうだ。


結城紬
茨城県結城市で織られた紬、奈良時代から続く高級な織物として有名。結城市は養蚕が盛んに行われており、農業の仕事が暇になった時に副業として紬を作っていたのが、結城紬の始まりとされている。その特徴は、ふわっとした肌触りで暖かみのある使い心地にあるそうだ。


さて、私が手にとった白大島に話を戻す。
大島紬の中でも白大島は、薩摩焼の原料となる白土に注目し、これを白泥に加工して細かな粒子にもみこむことで豊かな風合いを持たせている。その中に恵大島紬がある。創業者である恵関五郎さんは最高の大島紬を作ることで有名で、その作品は昭和天皇にも献上されている。絣の魔術師と言われる伝統工芸師である。

実はこの方、タレントの恵俊彰さんの祖父であり、俊彰さんの父もまた、そのあとを継いだ工芸師である。
時を経て、今はその技術を廣田紬株式会社が引き継いでいるそうである。


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(左:泥染め、 右:白泥染め)


これこそ、100年単位での継続性が問われる伝承ではないだろうか。今ではその希少性から高価なものとなっているが、非常に丈夫であることから、古くは普段着や野良着としても使われていたらしい。


1935年、アメリカのデュポン社はナイロン繊維を開発した。ナイロン(nylon)の名称は、「伝線(run)しないストッキング用の繊維」を意図した「norun」に由来するらしい。

一方で、ナイロン登場前に絹の圧倒的なシェアを誇っていた日本に対して、「Now You Lousy Old Nipponnese (古い日本製品はもうダメだ)」の頭文字をとったという説もあるらしい。


言葉が適切ではないかもしれないが、「一旦、文明を忘れ、もう一度、文化に浸りませんか」と言いたくなった!